TPP外圧からの防衛は日本の賢い消費者の手で

TPP大幅修正、困難な可能性 別の枠組み検討=NZ貿易相

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TPPは「環太平洋パートナーシップ協定」の文字通り
太平洋周辺国による多角間の関税撤廃協定である。
終了したGATTを引き継いだ戦略と言われ
大西洋周辺国ですでに発効しているTTIPと、基本的に同趣旨とされる。
だが、その真の狙いは、極端に言えば
米政府が拡大しようとしたグローバル化の名目の下に
加盟各国の関税撤廃により、米企業の世界市場拡大を狙ったものである。
とりわけ標的とされたのは、米経済における貿易赤字の比重が大きい日本で
米政府の目標は日本市場の完全開放にあり、
特に金融資本主義で世界支配を狙うアメリカの狙いは
日本の金融・保険市場にあった。
そうした思惑に豪州が同調し、さらに当初は参入を予定していなかった
カナダまでが賛同して、突如参入を表明した。
つまり、米豪加三国による日本市場への植民戦略という性格を帯びていた。
日本にとっては油断大敵の警戒すべき協定であるが
一帯一路で海洋進出即ち日本侵略を狙う中国の手引きを目論み
そのために日本の弱体化を狙っていた民主政権が
このTPPにいち早く積極姿勢を示したのも、頷ける話である。
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しかし、国内経済界は参入を巡って、意見が二分された。
大手企業の集合体である経団連は前向きだが
国際競争力に不安を抱える中小企業や
食糧自給率が僅か37%で、価格競争力も低いながらも食の安全を担う農業界
庶民の人命を与る医療界や医薬品業界などが強固に反対。
このため日米同盟に配慮し、米オバマ大統領の顔色を窺う安倍政権が
TPP参画を表明するや、直ちに国会周辺では連日、反対集会が起こり
参入反対の陳情なども行われた。
のみならず、どの業界にも利益を代弁する族議員がいるため
自民内部でも、各業界と結びつきの深い彼らの強い反発が生じ
分裂状態となった。
中でも問題視されたのはISDS条項で
各国の国内法が自由貿易の障壁となる場合は
他国の投資家や企業が提訴できるという規定で
国際条約は国内法の上位にあるため
判決によっては、国内法の改正を強いられる事態となり
内政干渉を許すことにつながりかねないと批判された。
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こうした国内のみならず党内での強力な軋轢から、参入に向けての論議は進まず
国会決議への展望がないまま、日本が蚊帳の外に置かれた状態で
ルールづくりばかりが進んでいった。
日本にとっては極めて不利な状態で、高いリスクを負わされる懸念が生じていた。
そうした焦りやジレンマもあってか
アメリカとの同盟関係を優先して参入を表明したものの
さしもの安倍首相も厭戦気分となり
TPPから手を引いてしまいたいとの心境を漏らしたとする
消息筋の証言を分析した解説記事も見られた。
ところが、米大統領がトランプ氏に交代した途端に事態は一変する。
アメリカファーストを公言する新大統領は、TPPの撤退を表明し
二国間協定で、個別の他国をダイレクトに攻略する戦術へと転換したのである。
政治家ではなく財界人であるトランプ氏には、経済交渉の駆け引きにおいて
長年培われた確かなノウハウと、不動の自信があるのだろう。
一方、積極発言がトーンダウンしていた安倍首相は
一転して強気の攻勢に転換し、アメリカの参入を促し始めた。
折しも、一帯一路構想によるG2体制を狙い、周辺国を侵略する中国の脅威が
日増しに高まっていく状況で、TPPは単なる経済協定としてではなく
中国を包囲し、その無謀な野望を経済的に封じ込める政治協定としても機能する。
いわば、安倍首相が構想した日米豪印のダイヤモンド構想の
経済版のような性格も併せ持つ。
そのためには、中国に対して軍事的にも経済的にも政治的にも十分な対抗力を持つ
アメリカの参入は不可欠となる。
ただし、もとより日本経済に強引な要求をつきつけ続けてきたアメリカであり
しかも強固派のトランプ氏を引き入れてしまうことは
日本にとっては諸刃の刃でもある。
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日本は、単に草刈り場として市場を荒らされる命運となるか
草刈り場となる代わりに、国際政治の安定化を得るか。
難しい選択といえるが、ここで思い出すべきは
かつてバブル崩壊により、日本国内の金融再編が進められた頃
米金融・証券、保険業界がこぞって日本市場に参入した時のことである。
結論から言えば、若干の損保・保険業界などは存続できたものの
シティバンクをはじめ、大半の米金融・証券業界は撤退を余儀なくされた。
原因は、低金利政策による預金者の激減、タンス預金の増加。
デフレ不況による物価低下で、個人ローンの借り入れ減少。
企業の設備投資も激減で、資金市場が縮小。
つまり資金の流動性はなく、金融機関は資金が滞留するばかりで
貸し付けもままならない。
また、日本人の消費性向は貯蓄性向が高く、投資マインドが低い。
投資大国アメリカのように、勤労所得は投資資金であり
その配当を以て生活費としてきたアメリカ人の消費性向とは正反対であった。
そうした日本の資本市場の特性にも原因があると言えよう。
慎重で地道な日本の消費者は、安直に乗せられることは無かったのである。
これはTPP協定後も、変わることはないだろう。
米投資家や企業が、いくら日本を訴えたところで
日本の消費者がそっぽを向けば、それきりである。
かくして我が国の経済防衛は、日本の賢い消費者によって
守られる構図となるのかも知れない。