見苦しい虚栄心による見苦しい光景

通勤電車でイライラする瞬間 TOP10

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日本橋からバイト帰りの深夜のこと。
地下鉄車内は全席が埋まり、立っている乗客もいたが
混雑で車内の見通しが利かない状況ではなく、比較的に空いていた。
だが、ふと何気なくただならぬ気配を感じ、その気配の元を探った。
そこには坊主頭にメガネ、スーツの若い男がシートに座り
その前には、先輩と思しきサラリーマン崩れのような
スーツにトレンチコートのオヤジが仁王立ち。
異様に感じた理由は、アルコールが入っている時間帯だけに
ほとんどの乗客がリラックスして座っているのに
その坊主サラリーマンだけは背筋を伸ばし、緊張に上気したような顔で
真っ直ぐに中年サラリーマンを上目遣いに睨み上げていることにあった。
           ◇
これは何かやっているな…と感じて、観察することにした。
二人の会話は、明瞭に聞き取れなかったが
中年から聞こえてきた断片的な言葉は「目を逸らすな!!!」。
対して、坊主は時折「はっ!!!国家でありますっ!!!」
などと大声で発言している。
覚えずプッと噴きだした。いわゆる体育会系右翼のノリである。
瞬時にシチュエーションが分かった。
二人は酒席で酔った帰路にあるが
何を思ったか、中年サラリーマンは酔いに任せて周囲に威光を振りかざし
粋がって虚勢を張りたくなったのだろう。
「オレは国家を心配しながら働き、ストイックに生きているのだ。
 いまここに居る周囲の凡人どもとは、格が違うのだ」
「オレたちは日々、このように厳しいスパルタに生きている。
 お前ら甘ちゃんとはワケが違うぞ」とでも言いたい心境なのだろう。
           ◇
これは面白いぞ。
この愚かな二人は、必ずや行動に歯止めが利かなくなって
エスカレートするだろうと予測しながら眺めていたら
果たして、中年は坊主に怒声を浴びせるだけでなく
やがて頬をつねったり、ビンタで張り飛ばしたり
短い坊主頭の毛をわしづかみにして揺するなど、やりたい放題を始めた。
恐らく「これしきのことに耐えられずして、どうする!!」
とでもほざいているのだろう。
いわば、戦争映画でよく見られる軍隊のお馴染みのシーンである
「気を付けっ!!!歯を食いしばれ!!!!」を、真似ている積もりだろう。
そうした中年の目に余る蛮行に、近隣の客も制止する素振りを見せ始めたが
制止されればされるほどに、むしろ感情が刺激されるものである。
中年は、しまいには坊主に覆い被さるようにして拳で殴りだした。
そろそろ坊主がキレる頃だろうと思っていたら
案の定、堪忍袋の緒が切れた坊主は、突如として猛烈な勢いで襲いかかり
中年は勢い余って、扉まで吹き飛ばされる格好となった。
さすがに周囲の乗客が止めに入ったが
中年は飼い犬のつもりで狼藉していた手下に、手を噛まれた不様を恥じてか
照れ笑いをしながら制止する客をなだめつつも
虚栄心をぶち壊されて恥をかかされた怒りが爆発。
坊主を激烈に殴打したその時、電車が駅に到着したので
坊主を車内から引きずり出して、出て行った。
           ◇
何とも見苦しい、後味の悪い光景である。
二人とも健在ならば、坊主は今や中高年。中年は老境の域であろう。
今にして、当時の愚行をどう振り返るのか
心境を聞いてみたいものだ……(嘆息
もしも、その光景を現代に見かけたならば、たぶん言うだろう。
「おぃ、あんた。
 国家、国家とハンパに愛国者を装って
 下らんデモンストレーションを見せつけるくらいなら
 教育勅語でも暗唱して見せたらどうだ。
 森友学園では、幼児ですら暗唱しているぞ。
 あんたには出来るのか?それが」