ダム技術者の胸から消えない「黒部の太陽」の悪夢

「ダムカレーは不謹慎」批判記事が物議 日本ダムカレー協会が反論「過疎化に悩むダム水源地の方々が考えだしたもの」

news.livedoor.com

かつてダム現場を訪問した際に
現場の総指揮監督を務める現場代理人から聞いた話を披瀝しよう。
部外者の素人には分からない感覚だが
ダムに限らず、道路、河川、港湾、空港、建築物など
建設現場というものは、建設技術者にとっては神聖な場所である。
重い重機、資材を動かし、高所作業や地下作業、坑道作業、潜水作業など
一歩間違えば、常に命の危険に晒される場所でもある。
だから、ほとんどの現場の作業事務所には
作業の安全を祈願して、神棚を祀っているのである。
そうした危険な作業を施工者に依頼する事業発注者にとっては
完成の暁には、数十年にわたって長期使用する事業計画であるから
現場で死亡事故などが起こることで
完成後も「作業員の犠牲でできた、いわく因縁付きの事故物件構造物」
となってしまうことを、極度に忌避する心理がある。
だからこそ、事故を起こしてしまった施工者は指名停止処分や
場合によっては、営業停止処分といった厳罰が課される。
そうした事態を回避すべく、事業者は縁起を担ぎ
宗教的中立が求められる行政という立場であっても
宗教的神事である安全祈願祭には列席し、無事故を祈願するのである。
このようにして、事業者・施工者ともに建設現場での事故を極度に嫌い
忌避する心情は共通である。
そうした厳格な安全管理を求められる建設現場であるからこそ
「構造物の崩壊」を想起させられるイメージに対し
事業者・施工技術者ともに過剰反応するのは、当然の心境なのである。
              ◇
とりわけ、ダムとなると事業予算は莫大で
規模の大きな国営多目的ダムともなれば、1,000億円を越えるケースもあり
施工期間も、20年以上にも及ぶケースもある。
その本体工事を、わづか3社の大手ゼネコンによる
共同企業体で施工するケースもあり
企業数が少ない分、不測の事態が起きた場合の責任は、分散されずに集中する。
それだけに、些細なミスをも許されない緊張感が高い施工現場と言えるだろう。
まして、韓国SK建設が施工したラオスの発電ダムのように
竣工後に決壊したケースなどは言語道断で
竣工後も竣工前でも、決壊した場合は施工責任が厳しく問われ
施工会社はもとより、施工に当たった技術者個人としても
致命的に社会的信用を失うことになる。
かつて『黒部の太陽』という映画があったが
事業者にとっても、施工者にとっても、それは極めてナイーヴな問題なのである。
そうした技術者としての責任感も矜持もないケンチャナオ朝鮮技術者は
手抜き施工によって3,000人の家屋を奪い、1,000人が行方不明となり
40人以上の死者を出しながらも、施工関係者らは現場を放棄し
いそいそと本国へ帰国して、逃げ出してしまったではないか。
これなどは、技術者の風上にも置けない話である。
古代バビロニアでは、施工者のミスで構造物が倒壊し
死者が出た場合は、まずは施工技術者が自費で修復し
しかる後に、一族郎党が連座責任で死刑に処されるという
厳格な規定であったという。
したがって「ダムカレー」それ自体に罪のある話ではないが
技術者には、それほどの重大な責任が古代から負わされてきているのであるから
痛烈を極めた批判を展開する多くのコメント者は
その堤体を崩しながら食べる光景が、責任感ある施工技術者らの
神経を逆撫でするものであることを、少しは察してやって欲しいと思う。